君の涙の理由を俺は知らない。
好きは交わらない
好きだよ 涙の雨 過去にかえる
赤い傘 暗い空を美しく彩る
そのキスでこの悲しみも全て忘れさせて
あなただけで満たして
声が別人のように聞こえた。
元々綺麗な声だけど、歌ってる時はもっと。
さっきはよく聞こえなかったけど、今度は鮮明に耳から心へ流れるように音が入ってきた。
「どう思う?」
歌い終わると首を傾げながらそう聞いてきた。
「ん?普通に上手くね?」
「ばか。そうじゃなくて、歌詞だよ。」
まだ濡れている髪を拭きながら、歩き出したなゆに合わせて俺も歩みを進める。
「“振られた女を他の男が慰める”曲って感じがした。」
「そっか。面白いね。」
「なんだよ急に。」
「他の人もね、そう言ってたの。」
何かを懐かしむ姿がどこか悲しそうに見えて、言葉を探した。
「お前は違うん?」
「うん。初めて聞いた時から“ずっと待ってた人と再会する”曲だと思った。」
俺とは全然違う答え。
どう聞いたらそうなんだよ。
「どこらへんがだよ。」
って笑うと、なゆがなんでよってつられて笑うから。
確かに、面白いなって思った。
「やっぱり同じものなのに、人それぞれ感じ方が違うんだよね。」
またさっきの悲しい顔。
じゃあさ、今お前は俺と二人でいる事をどう思う?
俺は楽しいよ、嬉しいよ。
この時間が結構好きだよ。
「…そうだな。」
そんなこと言えるわけもない。
期待した答えなんて返って来ないから。
終わった会話。
次の言葉を探すが、中々出てこない。
「好きだったなぁ。」
びっくりしてなゆを見ると、濡れた髪を触りながら、また俺の知らない方を見ていた。
なゆの“好き”って言葉が俺に向いてない事は、もう分かってる。
あ、また悲しい顔。
お願いだからその顔をしないで欲しい。
いつもの笑顔で俺を見て。