君の涙の理由を俺は知らない。
君の向いてる先にいるのは俺以外の他の男で
『なんで泣いてたの?』
って聞けばその答えもついてくるだろう。
「しおんはさ、好きな人とか居ないの?」
「さーな。」
「なんか、そういうの興味なさそうだよね。」
ちげぇよ、ばぁか。
確かにあの人可愛いとか、誰が誰を好きとか興味はないけど。
今、俺の心の中になゆがいるんだよ。
お前の“好き”がどこにあんのか気になるし、俺の事どう思ってんのかなって思うよ。
もうとっくに消えたと思ってたけど、今わかった。
多分中3の時からずっと、俺の“好き”はお前にあるから。
「うっせ、お前は?」
ちゃんとした答えが欲しかった。
分かってるくせにそうじゃなきゃいいなって思う。
存在しないのに、違うって確信が欲しかった。
「今はいない、かな。」
……やっぱり聞くんじゃなかった。
今は…か。
「あーあ、そこら辺にいい男いないかなぁ!」
思ってもない事を口にするなゆ。
強がるのはやめろって。
余計泣きそうになってんじゃん。
「……俺は。」
小さく呟いた声は、なゆの耳に届く前に空気に溶けて消えた。
って、なに言ってんだろ俺。
恥ずかしくなって俯くとなゆが顔を覗き込んできた。
それを隠すように傘を持っていない方の手で、胸元まであるなゆの黒髪に触れる。
「まだめっちゃ濡れてんじゃん。」
なんとも思ってないくせに、少し赤くなった頬。
「あ、そういやさ、しおんって歌うまかったよね!」
照れ隠しのように、態とらしく話をそらす。
「お前に聞かせた事あるっけ?」
「いや、ないけど。こうたが言ってたからさ。」
こうたは親同士が仲良くて、素直な性格で人懐っこい幼馴染みだ。
余計な事を言うのは玉に瑕。
「あいつ……。全然上手くないから。」
「嘘だ、聞きたい。」
「やだよ。」
「えー、なにそれ。人のは聞いたくせに。」
「それは、お前が悪い。」
「なんでよ、けち。」
こういう会話は嫌いじゃない。
このときだけでも、俺だけを見てくれているようで…。
「じゃあ、少しだけ。」
そんなに聞きたいのか、子供みたいに目を輝かしてる。
腫れていた目はまだ赤いけど、こいつが今笑っているならいいかなって思う。
俺なら泣かせないのに。
お前が笑うなら、いくらだって歌ぐらい歌うよ。
だからもう少し、歩くスピードを落とそうか。