君の涙の理由を俺は知らない。
悲しみに溺れているのは
You'll go to look for lost one.
I don't know That night
The sky was crying That night
Only the grief is there.
“悲しみに溺れる人を元気付けている”。
そんな曲だろうか。
「なんだよー、めっちゃ上手いじゃんか。発音めっちゃいいし!」
くそーって言いながら肩をバシッと叩かれた。
「痛い、上手くねぇって。」
「あ、まだゆうか。人に上手いって言いながら自分の方が上手いとか、嫌味か!」
ブツブツいいながら、最後には下唇を突き出して拗ねだす。
そっちこそ、上手いくせに嫌味かよ。
「ねぇ、何でその歌?」
「なんでだろ。なんか一番最初に思いついた。」
なゆの事考えてたら思いついた。
多分、歌がなゆと重なったから。
「Only the grief is there. そこにあるのは悲しみだけじゃない。俺、ここの歌詞が好きなんだよね。」
「確かに、いいね。」
さっき歌った歌を分からないくせに、鼻歌で歌ってみせる。
リズムも音程も間違えてるし。
「……悲しみに溺れているのは誰だろう。」
「…は?」
「この歌、誰を慰めてるんだろう。」
どうやら、なゆも同じ事を感じたらしい。
この歌の主人公にとって、その人は……友達、恋人、家族…。
わかんないけど、きっと大切な人なんだろうな。
「あーあ、家に着いちゃったね。」
気づけば目の前にはなゆの家があって、もうお別れだと思うと少し寂しい。
傘を握る腕が力む。
「タオルありがと。洗って返すね。」
「…ぁ、あのさ」
傘から出ようとする彼女の腕を掴み、引き止める。
咄嗟に言葉が出たが、特別用がある訳でもなく、次の言葉が出てこない。
…言葉。
なにか言葉、出てこい。
なゆはどうしたの?って俺を見つめる。
何でもいいから、なにか言葉……。
「あっ…。」
急にそんな声が聞こえて、なゆを見ると俺の斜め後ろを見ていた。
その視線の先を見ると、手を繋いで歩くカップルらしき人が二人歩いていた。
男の方もなゆに気づき、バツの悪そうな顔をしている。
どういう事か理解するのに時間なんて掛からなかった。
そのまま何事もなかったかのように通り過ぎようとする男に凄い腹が立った。
「なゆ。」
名前を呼べば涙ぐんだ目で俺を見上げる。
頬に手を当て、キュッと結ばれた唇に触れれば少し口が開いた。
傘を掴んでいた右手を離しなゆの後頭部へ。
そのまま引き寄せキスをした。
あの男に見せつけるように。
雨は、なゆの涙を隠してくれた。