未来郵便 〜15年越しのラブレター〜
とりあえず、誰の声も聞こえない。
葉山達はここにはいないようだ。

安心しつつも油断せず忍び足で階段を登り、初めて秘書課がある十八階にたどり着いた。


「すっご……」


下の階とは全然違う。
綺麗で、上品。どこかのホテルみたいだと思った。

床は全面カーペット貼り、各部屋の扉はスイートルームみたいな作りで照明もお洒落。

こんな環境で働けるなんて、秘書課が会社の女の子達から羨望の眼差しで見られてるのも頷ける。


「ここが秘書課か」


なんか入るの凄く緊張するんですけどっ。

というか、私なんかが来てもいいのかな。
一応社員だけど末端の末端の人間だし……


なかなか決心がつかなくて、秘書課のドアの前でノックしようと手を出しては引っ込める。

何度か繰り返していると、突然ガチャとドアが開いて中からスーツをビシッと着こなした女性が出てきた。


「どちら様ですか?」

「す、すみません。営業一課の西條です。平野課長より書類を預かってきました」

「ああ、平野君のとこの新人さんね」

「はい。あの、斎藤さんはいらっしゃいますか?」

「私が斎藤です」

「え?あっ、失礼しました。これがお預かりした書類です」

「ふふ。そんな緊張しなくても大丈夫よ」


斎藤さんは艶やかな唇を上げて笑うと、「ありがとう」と茶封筒を受け取った。


なんか格好良い……

姿勢、仕草、身なり。
全てが清楚で上品で、綺麗だ。

才色兼備、キャリアウーマン。
斎藤さんのためにあるような言葉だと思う。

女の私でも目を惹かれる。


「そんな見つめられると照れるわ」

「あっ!ご、ごめんなさい!」


あー、やっちゃった!
恥ずかし過ぎる私。

カァッと赤くなった頬に手を当てると、「やられたわね」と斎藤さんのため息混じりの声が聞こえた。



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