未来郵便 〜15年越しのラブレター〜
「綾音」


葉山の低い声がシンと静まり返る廊下に響く。

振り返った葉山とバチッと視線が交わって、胸がギュッて詰まった。


「何で最近逃げんの?目も合わせねぇし、わざと会わないようにしてんだろ?」

「あのね、それは」


嘘はつけない。
全て見透かされてるような力強い瞳に思わず口を噤む。

これは相当怒ってる。

キラキラ笑顔が似合う葉山にこんな顔をさせてしまうなんて、私ってなんて愚かなんだろう。

こんな私に、葉山を好きとか言う資格なんてない。


「……ごめんなさい」


ここに連れて来られた時、少しは覚悟していたつもりだった。

でも、それはただの“つもり”で、実際は覚悟なんて全く出来てなかったんだ。


葉山に嫌われるのが怖い。

葉山に拒絶されたら、私はこれからどうやって生きていけばいいの?


言いようのない絶望感に胸が苛まれる。

目に涙がじわり滲んだ時、更に追い討ちを掛ける言葉が聞こえた。


「すげぇムカつく」


喉の奥から出したような凄みのある声が鋭い刃となって胸を刺す。

痛みに堪えるように目をギュッと強く瞑った。


「少しぐらい言い訳しろよっ」

「え?」


葉山がボソッと呟く。
うまく聞き取れなくて、聞き返した時。


「でさぁ」と、大きな声で話しながら誰かが階段を降りてくる足音が聞こえて、咄嗟に階段を振り返った。


「あの一年、名前なんつったっけ?」

「西條綾音でしょ?バスケ部の」


え⁉︎私?

何で私の名前が出て来るの⁉︎


「生意気じゃない?葉山のこと呼び捨てにしてるし」

「わかる!“先輩”つけろっつーの」

「葉山も葉山だよね!名前で呼び捨てなんかしちゃって。そりゃ女も調子に乗るわ」


声も足音もどんどん近付いてくる。

どうしよう……
このままだと出くわしちゃう。

葉山と二人でいる時に、声の主達と出くわすのは絶対に良くない!



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