未来郵便 〜15年越しのラブレター〜
細井が投げたボールが大きく逸れて遠くに転がっていく。

走って追いかけると、ボールは誰かの足にコツンと当たって止まった。


「すみませ……っ!」


顔を上げながら言うと、拾ってくれた人の顔を見た途端に私の時間はピタッと停止した。

ボールを拾い上げ手の中でくるくるっと軽く回す葉山。

「ほら」と言って私にふわり投げると、それはゆっくりと私の胸元に落ちた。


「あ…りがと……」


声が上擦る。

最近、慣れたと思ったのにやっぱり面と向かって話すのは緊張する。

一瞬でカァッと顔中が熱くなって、妙に恥ずかしい。


「球技大会の練習?」

「うん……そう、です」


ぎこちない敬語に、葉山はククッと笑った。


「綾音緊張し過ぎ」


私にだけ伝わるようにそう唇を動かす葉山に、胸がきゅうぅんと締め付けられた。


ヤバい、幸せ過ぎるっ!

久しぶりの名前呼び。
しかも葉山の極上の笑顔付き!


どこかの誰かさんに呼ばれるのとは天と地ほど違う。

大袈裟だけど、自分が綾音って名前で良かったとさえ思えちゃう破壊力!


はあぁぁ〜、やっぱ好き。

ドキドキし過ぎて頭がおかしくなりそう……



「部長!ボールありがとうございます」


時間を忘れ幸せを噛み締めていると、後ろから細井の大きくて邪魔な声が聞こえて現実に引き戻された。


「綾音。早くしろよ、時間なくなるぞ」


細井のやつぅ〜っ‼︎‼︎

空気読めなさ過ぎ!わざと邪魔してんじゃないの⁈


………でも、仕方がない。

今はクラスの皆を待たせてる。

話す機会はいつでもあるんだ。
もう少し人が少ない時にしよう。


「葉山先輩、じゃあ……っ」


じゃあまた、と最後に声を掛けようと葉山を見た途端、私は言葉を失った。


普段のキラキラ煌めく瞳じゃない。

葉山は鋭く威圧感がある瞳で、私の後ろをジッと見据えている。

それが私に向けられてるわけじゃないのに。
あまりの凄みに気を呑まれてしまった。



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