未来郵便 〜15年越しのラブレター〜
葉山との文通は完全に止まってしまった。

もしかしたら、と思って一度だけ手紙を下駄箱に入れてみたけど、やっぱりそれも葉山の手には届かなかった。

私が送った手紙は渡先輩の手によって昇降口のゴミ箱に投げ捨てられてしまったのだ。


くしゃくしゃになった手紙を目の当たりにして、私の中の何かが弾け飛んだ。

本当ならいくらだって方法はある。

私が勇気を出して葉山に話しかければ良いだけなのに、そんな気になれなかった。


憧れだった先輩の信じ難い姿は、私の葉山への恋心のみならず心全てを蝕んでいった。

穴だらけになった心じゃ、勇気なんて穴から漏れて無くなってしまう。


葉山の姿を見ると隠れる。
時には逃げて、時には目を逸らして葉山に気付いてない振りをする。

それは以前よりも酷いものだった。


当然、そんな状態が一ヶ月も経つと葉山は私に話し掛けて来なくなった。

今では挨拶すらしない。

そこに私なんていないかのようにスルーされる。
私の存在なんて、今じゃ空気以下だ。



「あ……ねぇ、トイレ行こう!」

「え?ちょっ…っ」


次の授業の移動中、花梨が急に慌て始めて私の腕を無理矢理引っ張った。

完全に自分の世界に入り込んでいた私。
突然の事に体がついていかなくて、手に持っていた缶ペンケースを落としてしまった。

ガチャーンと大きな音が廊下に響いてペンがあちこちに転がっていく。


「ごめんごめんごめん!私が拾っとくから綾音は先にトイレ行っててっ!」

「トイレ行きたいのは花梨でしょ?自分で拾うからトイレ行ってきな」

「でも……」


花梨が拾ったペンを受け取りながら言う。

だけど、花梨はあわあわするばかりでトイレに行こうとしない。

それどころか、私の後方を見ながら目を大きく見開いた状態で固まった。


「何?どうしたの?」と振り返る。
「綾音!」と叫ぶ花梨。


時間が、呼吸が、心臓が、止まった。



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