未来郵便 〜15年越しのラブレター〜
放課後、私の予想は確信に変わった。


葉山から届いた、たった二行の手紙。

そして、私の前を手を繋いで歩く葉山と渡先輩。


ギリギリの所で保っていたものが崩れ落ちた瞬間だった。



ルーズリーフの端切れに書かれた手紙を握りつぶす。


私は負けたんだ、渡先輩に。


片想いの恋にルールなんて存在しない。

どんな手を使ったって。
例え、ズルをしたって。

手にいれさえすれば勝ち。


葉山が渡先輩を選んだ。

これが、全て。



「もう……いい……」

「あや、ね……」


“なんで渡先輩と手繋いでるの⁉︎”

“その人は、私の手紙を抜き取ってた犯人なんだよ⁉︎”

“表では良い顔して、裏ではズルいことをするような人なんだよ⁉︎”


言いたい事はたくさんある。

そうやって言えれば葉山は戻ってくるかもしれない。


でも、もうどうでもいい。

葉山なんか知らない。

葉山なんていらない。


「もう、葉山なんて好きじゃない」


言葉とは反して、涙が頬を伝う。

何粒も何粒も。
それは、私の葉山への抑えきれない“好き”を表してるかのように。


「私…葉山のことぶん殴ってくる」

「花梨…」

「なんで?なんでよりにも寄ってあの人を選ぶの…?」


花梨は声を震わせ、ぐすっと鼻を啜る。


「あいつがこんなに馬鹿だとは思わなかった。でも、でも……」


部活終わりの昇降口はシンッと静まり返り、花梨の涙交じりの声がやけに響いた。


「それ以上に綾音は大馬鹿野郎だよ……」


そう言った花梨の目から、キラキラ光った雫が落ちた。


「好きじゃないとか言って……本当はまだ大好きなくせに……っ、こんなことになっても、葉山のこと好きで好きで堪らないくせに」

「花梨…泣いてるの…?」

「泣いてなんかない……素直じゃない二人のために泣いてなんかやらないんだから」


初めて見る花梨の涙。

それは純粋で、私の蝕まれた心に染みわたった。









空はすっかり夕日で赤く染まり。

緑の香りを乗せた心地いいそよ風が吹く。



中学一年。


梅雨の合間に、私の初恋は終わった。








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