未来郵便 〜15年越しのラブレター〜
「喧嘩するほど仲が良いってアンタ達のためにあるような言葉だよね」


その言葉は当然知ってる。

でも喧嘩するほど仲が良いっていうのは、安心して喧嘩出来るぐらいの関係性が築けている事が前提にあるわけで。

私と細井の間にそんな関係性は皆無。

よって、私達のためにある言葉じゃない。


呆れ気味に言った花梨に言い返そうとした時、空気が読めない憎たらしい声が耳に届いた。


「サボってんじゃねぇよ」


はいぃぃ〜?サボってるだと⁈

そもそもこのタイミングで現れた事もムカついたのに。
さすがにカチンと頭に来て「あのねぇ!」と応戦しようと振り返ると、応援団員姿の細井にドキッと胸が跳ね上がった。


第一ボタンまでカチッと閉めた長ラン。
風にたなびく赤いハチマキとタスキ。

ワックスで立てた髪。
微かに光る汗。

白い手袋を取り、「あちぃな」と呟きながら第一ボタンを外す姿があまりにも色っぽくて……


「カッコ良いって思ったでしょ?」


ニヤニヤしながら耳打ちしてくる花梨に返す言葉がなかった。


「次、クラス別リレーだろ。行くぞ」

「あっ!ちょっと引っ張らないでよっ!」


返事も聞かず、私の手を引いて歩き出す細井。

花梨を振り返ると、「行ってらっしゃーい」とひらひら手を振っている。


行ってらっしゃいじゃないよ!
助けてくれてもいいじゃん、花梨の人でなし!


なんて、思いながらもドキドキが収まらない。

握られた手が熱くて、いつもなら振り解くのに出来なかった。


半歩前を歩く細井をチラッと盗み見る。

応援団員姿でいつもよりキメてるからか、横顔が凛々しく見える。

私より大きな背中。
骨張った手。
硬そうな髪。

当たり前だけど、細井もれっきとした男なんだ。



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