未来郵便 〜15年越しのラブレター〜
「走れ!まだ終わってない!」


何故だかわからない。

だけど、虚しくてたまらなかった私の心に細井の声がストンと入ってきた。


両膝が痛い。
擦りむいただけだけど、結構血が出てると思う。

それでも走れないわけじゃない。
全速力とまではいかないけど、今出せる全ての力を出して私は細井にバトンを渡した。


「あとは俺に任せろ」


バトンの受け渡し際、そう言った細井はぐんぐんと差を詰めて行く。

ビリから4位、3位、2位と順位を上げて。

ゴール前の直線、一位との差は約一、二メートル。


「細井!あと少し!頑張れー!」


パンパーンとピストルの音が鳴り響いた。





「痛いって!」

「バーカ、これぐらい我慢しろ」


クラス別リレー後の保健室。

救護テント番中の花梨は私の怪我を見て、『これはここでは消毒出来ない。保健室に行きなさい』と細井に私を連れてくよう命じた。

保健の蒲田先生は花梨に何か耳打ちをされると、『私も今はここを離れられないから悪いけど細井君消毒してあげて』と見え見えの嘘。

花梨の私と細井を二人っきりにしようっていう思惑が丸見えで、私は溜め息を吐いた。


「結構痛そうだな」

「結構じゃなくてかなり痛いよ」

「ガーゼとかの方が良さそうだけど」

「自分でやるから取ってくれる?」


傷は思ったより深かった。
たまたま転んだ所に石があったようで、右膝はバンドエイドじゃ務まらないぐらいの傷だ。

蒲田先生がいたらこんな処置簡単なのに。
先生ったら花梨に唆されて仕事を忘れちゃってるよ。


「さっきはごめんね」


消毒液やゴミの片付けをしてくれている細井に恥ずかしがりながらも謝った。



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