未来郵便 〜15年越しのラブレター〜
細井は何も言い返して来ない。

口を噤み、何か考えてるように眉を寄せた。


「わかったよ。お前、相当頑固なのな」

「それは細井もでしょ」

「でもさ、唯一無二なのは俺も同じ」

「ん?」

「俺も諦めねぇってこと」


ニヤリと口の端を上げる細井。

さっきまでのカッコ良いキャラから一転、いつもの意地悪なキャラに戻ったその笑顔がある意味不気味だった。


「綾音の今の心境もわかったし、今日はこのぐらいにしといてやるよ」

「何よ偉そうに」

「ま、とりあえずキスさせて」

「……は?」


聞き返す間もどういう意味か考える間もなく。

それは、一瞬だった。


手首を掴まれてグイッと引き寄せられると、バランスを崩した私の身体は前に傾いた。

掴んだ手首はそのまま、反対の大きな手が私の肩を支える。

視界に影が落ち、微かだけど右口角に細井の吐息を感じた。その時。


ダンッ‼︎と、後方から大きな音がして咄嗟に振り返ると、そこには見たこともないほど険しい表情の葉山が開けたドアに拳を当てて立っていた。


「は、やま……」


突然の登場に動揺を隠せず、声が上擦ってしまう。


何でここに葉山がいるの?

い、いつからそこにいた?
いつから見られてた…?


全身に冷や汗をかいてるようだ。

鼓動が速い。

内心かなり焦ってる。

だって、今の……

ちょうど私の真後ろにいる葉山が見たら、私達がキスしてたかのように見えたはずだから。


「何やってんの」


地を這うような、恐ろしく低い声にビクッと身体を強張らせる。


すごい怒ってる…
こんなに怒った葉山を私は見たことがない。



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