未来郵便 〜15年越しのラブレター〜
「綾音、そろそろ行こう」


細井は私の手を掴んで立たせようとする。
だけど、私はその手を拒んだ。


「綾音…?」と細井が息を飲んだ気配が微かにした。


「西條さんの膝の傷、私がもう一度処置し直すわ」


先生は私の気持ちを察して、助け舟を出してくれる。


「あ……じゃあ俺も」

「細井君は行きなさい。もう応援団の集合の時間よ」

「…わかりました」


そう言って、細井は葉山をもう一度睨み付けると保健室を出て行った。


はぁ、と軽く息を吐く葉山。

気を取り直すように「それで先生」と言うと、背筋を正した。


「用事って何ですか?」

「忘れちゃったわ」

「え?」


蒲田先生はごめんと手を合わせるもけろっとして悪いなんて微塵も思ってなさそうだ。

どういうことだ、と眉間に皺を寄せる葉山がなんか気の毒に思えてくる。


「はい、もしもし蒲田です」


意味不明な先生に葉山が問い詰める暇もなく、先生は突然電話の受話器を取ると話し始めた。


あれ?今、電話鳴った?

私が聞き逃しただけ?


葉山もおかしいと思ったのか、目を細めて先生の動向を窺っているように見える。


「はい。わかりました、すぐに行きます」


そんな中、すぐに先生は受話器を置くと慌てたような素振りで私の傷を消毒し直した。


「救護テントの方から緊急で呼び出しが掛かっちゃったわ。葉山君、あとはお願いね」

「は?」

「消毒は済ませたから、あとはこのガーゼをこのテープで剥がれないように貼ればいいだけ。去年保健委員だったからなんとなくわかるでしょ?悪いけどよろしくね」

「ちょっと、先生!」


先生は葉山が止めるのも聞かず、バタバタとドアを開けて出て行こうとする。

その間際、ピタッと止まって私達を見ると、先生らしからな言葉を口にしたのだ。


「誰もいないからって変なことしちゃ駄目よ」


ふふふ、とあたかもこの状況を楽しんでるかのような笑みを残して去っていく先生。


嵌められたっ!
さっきの電話はやっぱりフェイク。
わざと細井を帰らせて、葉山と二人っきりになるように仕向けたんだ。


もう!何してくれちゃってるのよ先生!

有り難いような有り難くないような。
嬉しいような嬉しくないような。

とにかく、私の心臓はすでに爆発寸前だった。





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