未来郵便 〜15年越しのラブレター〜
「お願いだから先に戻って」


これ以上惨めになりたくない。

この気持ちはきっと消えることはない。永遠に。

なら、胸の奥底に沈めてしまえばいい。
もう二度と出てこないように。


葉山は息を吐きながら「わかった」と言うと、
保健室のドアを静かに開けた。

私は葉山を見ずに俯いたまま、ただその気配が消えるのを待つ。

だけど、足音は入り口付近から動かない。
それどころか背中に視線を感じて、手をギュッと握って煩い胸の鼓動に必死に耐えた。


「綾音」


さっきの冷たい声とは違う、いつもの優しい声。

……私が大好きな葉山の声だ。


「さっき、わざと邪魔したんだ」


え……?わざと……?


「綾音の怪我が気になって救護テントに行ったんだ。でも綾音はいなくて。戻ろうとしたら花梨ちゃんに蒲田先生が保健室に来いって言ってたって聞いてここに来た。まさか細井と綾音がいると思わなかったけど」

「花梨が……?」

「最初は細井とこんな所で二人っきりっていうのもムカついたけど我慢してた。でも、キスだけはマジで耐えられなかった」


は、やま……


「ごめんな」


葉山はふっと悲しげに笑う。
そして、ゆっくりとドアは閉まった。


大粒の涙が震える手にぽたりと落ちる。

“耐えられなかった”と言った葉山の声は、どこか苦しそうだった。


なんでよ……どうしてそんな風に言うの…

その言い方…まるで葉山が私のこと好きだって言ってるように聞こえる。

私が失恋したんだよね…?
葉山は渡先輩が好きなんでしょう…?

卑怯だよ……こんな言い方されたら葉山のこと忘れたくても忘れられないじゃない。


ごめんな、の意味もわからない。
何に対しての“ごめん”?

邪魔したこと?
さっきの言い合いのこと?
それとも、私の気持ちに対して?


「ぐず…っ……葉山ぁ……」


苦しい……
胸がはち切れそうだ。

涙も止まらない。
鼻水もどんどん出てくる。

体育祭の最中なのに。
すぐに戻らないといけないのに。

今は無理……
全部が苦しくて動けそうにない。


私は時間を忘れ、涙が枯れるぐらい泣いた。

葉山が好きだと、何度も何度も口に出して……




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