未来郵便 〜15年越しのラブレター〜
「綾音どうする?」


渡先輩とはさり気なく距離を置いてる。

バスケは上手いし部長としては尊敬してる。
だけど、やっぱり手紙を抜き取られたことは許せなかった。

渡先輩が私に対して何事もなかったかのように接してくるのも正直イラっとする。

好きか嫌いかと聞かれたら、間違いなく後者寄りだ。


だけど、今回ばかりは放っておけない。

どんなに嫌いでも、こんな暗い場所で一人で泣いてる人を見て見ぬ振りするなんて違う気がした。


「ちょっと見てくる」


私は葉山が出てきた教室の前まで来ると、開きっぱなしのドアから中を恐る恐る覗いた。


グスッと鼻を啜る音が聞こえる。

そしてすぐに窓側の前から三番目の席に、微かな月の光を浴びた丸い背中を見つけた。


「渡先輩……?」


私の声にビクッと身体を震わせて、ゆっくり顔を上げる先輩。

逆光で顔がよく見えない。
だけど、涙が浮かんだ目がキラリと光って、私を見ているのはわかった。


「大丈夫…ですか……?」


葉山と喧嘩して泣いてるところを見てしまった気まずさと先輩のことを許せてない気持ちが入り混じってぎこちなくなってしまう。

見て見ぬ振りは出来なかったけど、泣いてる先輩に気の利いた言葉を掛けるのも少し気が引けた。

私って性格悪い……
こんな時ぐらい優しく出来ないの?

頭ではそう思っても、心はそう簡単についていかない。


「ザマーミロって思ってるんでしょ」

「え……?」


いつもの明るくて気さくな優しい先輩とは違う。

不貞腐れたような話し方をする渡先輩に驚いて、思わず耳を疑った。


「心配してる素振りして、本当は心の中で笑ってるんじゃない?」


そう嘲笑して言う先輩は、もはや別人のようだ。

凛とした格好いい部長の姿なんてどこにもない。

こんな先輩、知らない……


初めて見る先輩の姿に、動揺を隠しきれなかった。



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