未来郵便 〜15年越しのラブレター〜
「私が何をしたか知ってるんでしょ?なのになんで何も言わないの?」

「あっ……」


渡先輩は気付いてたんだ。
私が、先輩が犯人だって知ってたこと。

気付いてた上でいつもと同じように振舞ってたんだ。


「卑怯なことして好きな人を奪った相手なんか放っておけばいいじゃない。何?いい子ちゃん振ってるつもり?」

「ちょっと渡先輩っ!綾音は、」


今まで私の後ろで静観してた花梨が渡先輩の発言にカッとなって噛み付こうとしたのを「花梨‼︎」と名前を大声で呼んで止める。

花梨は私が止めたことが意外だったのか不服だったのか、「だって…」と眉を寄せた。


花梨が納得いかないのはわかる。
私も同じ。

いい子ちゃん振ってるだなんて言われていい気はしない。

こんなこと言われるなら放っておけば良かったとさえ思う。

けど、やっぱりそれとこれとは別。

泣いてる人を放っておくような人間にはなりたくない。それがどんなに嫌いな人でも。

それが“いい子ちゃん振ってる”って言われることなら言われたって構わない。


「何よ、その目は。はっきり言ったらどうなの?」

「正直言って、渡先輩のこと嫌いになりました。手紙を抜き取るなんて卑怯です!正々堂々ときてほしかった」


渡先輩はいつも格好良かった。
強くて優しくて、真面目で。

葉山と似てる。葉山の女性版みたいだ。
そんな風に思ったことだってある。

そんな先輩に憧れて、先輩みたいになりたいって思う後輩は私だけじゃなかったはず。


だからこそ、こんな卑怯な手段は使って欲しくなかったんだ。


「正々堂々?それ本気で言ってる?」

「本気です」

「ホントめでたい人。そんな悠長なこと言ってるから奪われるのよ」




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