狼少年、拾いました。
 予想外の言葉に振り返った。

 外からの鈍い光がスティーヌの黒い影のような体を通って、薬を探して開け放していた棚が透けて見える。

 「わたしはそう思うけど。この間だって、体を拭く布あったでしょう、わたしがお茶を思いっきりこぼしちゃったやつ。一緒に染みを落とそうとしてくれたじゃない。」

その布は比較的新しくて綺麗なもので、落ち込んでいたミェルナに、うさぎみたいな模様が出来たじゃない、と明るく言ってくれたのだ。

スティーヌの顔に浮かんでいるのは思ったような表情ではなくて、ミェルナは真意を確かめるようにその黒い影を見上げた。

「違うの?」

 「さあ。私は人間ではないから分からない。」

 スティーヌはこのように何かを言いかけては、意味不明な返しをしてはぐらかすことがあった。

 いつもは色々なことをミェルナが納得行くまで説明してくれるのに。

 (私が知るにはまだ早いってことかな。)

 そう結論付ける分には、ミェルナは母の代わりに十何年もの間自分が生きていくのを助けてくれた、この不思議な“彼”を信頼していたのだ。

 「風邪薬が切れかけていたのではないか?そろそろ採取に出かけた方がいいだろう。」

 黙りこんだミェルナを見かねたのか空気を変えるようにスティーヌが言った。  
 

   
 今年の冬は厳しかった。

 春になってもかなり冷え込み雪が溶けず、多くの村の子どもが体を悪くしたそうだ。

 そのため今年は風邪薬の消費量がかなり多く、例年通りの量では底がつきそうなのだった。

 今の季節はあまり必要ないかもしれないが、いつ子供が熱を出したと村人が駆け込んでくるかも分からない。

 これから雨も多くなるだろう。

 雨が降らないうちに必要な薬草や木の実を森へ採りに行かなければならない。

 部屋の隅に置いてあるかごを手に取り、ミェルナはスティーヌと一緒に外へ出た。
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