狼少年、拾いました。
場違いなミェルナの声で明らかに苛立った顔をする壮年の方の男。

「彼を匿ったわたしも殺されるんでしょう?だったら最後に一つだけ知りたいわ!レスクは一体何をしたの!?」

面白そうに若い方が片眉を上げた。

だが初老の男は厳しい顔のままミェルナの方を見向きもしない。

「時間を稼いでも無駄だ。」

「いいじゃないですか、そんなんだから奥様に逃げられるんですよ。」

若い方が渋い顔の上司を制して剣の刃先をレスクに向けたまま1歩前に出た。

「彼は重罪人ですよ。私たちの領主を殺したのです。」

ミェルナは息を呑み、レスクの青ざめた顔を見た。

「あれは俺じゃない!」

「それは俺たちに言っても仕方のないことですよ。」

レスクの叫びをバッサリと切り捨てると、男はじりじりと距離を詰めはじめた。

(もう終わりだ。わたし、殺されるんだわ。)

すさまじい気を放つレスクの背中をすがるように見ると、前を注視したままレスクがぼそりと言った。

「おい。」

「なに?」

「合図したら走れ。」

スティーヌはきっとしばらくはミェルナに乗り移ることはできないし、他に良い策などミェルナは到底思いつかなかったので、首を縦に振るしかなかった。

ミェルナが頷いたのを確認すると、レスクは素早く荷の中に手を突っ込んだ。

「いけ!」

レスクは取り出した玉を地面に投げつけると玉は粉々に砕け、中から烏のような黒い色の煙をもくもくと吐き出し、みるみる辺りにのっぺりと広がり、ミェルナの視界は真っ黒になった。

レスクに手首を掴まれ、再びがむしゃらに走り出した。

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