狼少年、拾いました。
 もう初夏も中頃。

 草木は青々と繁り、ただでさえ曇り空で届かない日の光をさらに遮っていた。

 家の裏にある長い獣道を通りながら必要な薬草を採って、一息つこうと小さな泉へ抜けた。

 水面には木々の葉の緑色の隙間から薄灰色が覗く空が写り、かすかな風に波立ち、苔むしたほとりには赤黒い花が咲いている。

 ここはミェルナのお気に入りの場所の1つだ。

 村の近くにここより大きい泉があるらしく用事はそこで済ませてしまうようで、こちらの方の泉には村人は立ち寄らない。

 倒れた木の幹にスティーヌと並んで腰を下ろし、頬杖をついた。

 (プベルトのことが好きなの、か……。)

 環境が環境だけにミェルナは誰かをそういった意味で好きになったことがなかった。 

 もし自分がゼーラと、村人と同じ見た目に生まれたら同じように誰かを好きになる暮らしが出来たのだろうか。

 目を逸らしてきた彼らと自分との違いがまたじわじわと心の中に染みだしてきた。

 みんなと違うのは悪いことじゃないわ、とゼーラが励ましてくれたことがあった。

 折角言ってくれたのでありがとうと応えていたが、内心気分は晴れなかった。

 きっとゼーラの言う、悪くない「違う」は、その人の中にはある程度皆と同じ部分があって「違う」部分は許せる位……ほんの少ししかないのだ。

 村人から見て自分の中には「同じ」部分はほとんどないのだろう。

 こんなに虚ろな気持ちになったのは実に久しぶりだった。

 こんな風にミェルナが黙りこんでしまうと、スティーヌは詮索することもしばらくはせず、一緒に黙ってぼんやりしていた。

 二人はしばしの間小鳥の声や風が木の葉をゆする音を流し聞きしていたが、遠くの方で草木を踏む音がして顔を上げた。
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