狼少年、拾いました。
 ミェルナはかすかに眉をひそめた。

 「人?どこから?」

 「村の方からだ。そろそろ戻るか?」

 ミェルナはうなずいた。

 「そうね。」

 会ったところで露骨に避けられておしまいだ。

 こちらが気を遣うつもりはさらさらなかったが、そろそろ洗濯やら色々な用事をやらなければいけない。

 立ち上がって服に付いた土を軽く払うミェルナにスティーヌは声をかけた。

 「ぎりぎりまで隣にいなくて大丈夫か。」

 「大丈夫。どうせ向こうから目も合わせずに行っちゃうんだからすぐよ。完全に遠くに行っちゃったら出てきてくれる?その方が楽でしょ。」

 「ああ。」

 返事を残してスティーヌは空気に溶け込むように消えた。

 (珍しいわ。村の人はこの辺りは滅多に立ち入らないのに。)

 緑の獣道を歩き出しながらそんなことをふと思った。

 まあ心配することはない。

 姿を消したといっても目に見えないだけでスティーヌは存在はしているのだ。

 すぐに遠くの木々の間に小さな人影が見えた。

 もう少し奥ならともかく、ここは視界を遮るものは木や低木くらいしかない。

 きっと向こうもこちらの姿が見えているはずだ。

 またいつものようにあからさまに遠ざかるなり引き返すなりするのだろう。

 (……?)

 いつもは遠くからでも分かるくらいにあからさまに嫌そうな顔をするはずだが。

 (ほら、黒い目の娘よ。村でさんざん言われてるでしょ、避けなさいよ。)

 その村人は、避けるどころかミェルナに向かって足を進めてくる。
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