狼少年、拾いました。
 「小さい頃お前が泣くとよくこうしていたな。…鼻水が付くのが何とも厭だったが。」

 「今は泣いてないから大丈夫よ。」

 「ああ。是非そのままでいてくれ。」

 軽口を叩きながら、内心スティーヌは胸を撫で下ろしていた。

 あのプベルトという男…というか少年、少し異常だ。

 しつこいと言ってしまえばそれまでだが彼の言葉や表情からは執念に近いものが読み取れた。

 ミェルナもそれを感じ取ったのだろう。

 やはり男は信用出来ない。

 「随分奥の方まで来ちゃったわね。」

 ミェルナはスティーヌから離れて周囲を見回した。

 「そうだな。」

 いつもの場所ではあまり見かけない木や花がかすかな風に揺れている。

 遠くの木の間には鹿の姿も小さく見え、かすかに川の水音も聞こえた。

(そういえばここらへんの川をずっと進むと滝があるんだっけ。)   

 その時、さーっと辺りが明るくなった。

 雲間から太陽が顔を出し、その光が差し込んだのだ。

 帰ろうか、とスティーヌに声を掛けようとした時、ふとある一点に目が吸い寄せられた。

 少し離れたところの藪の中で、何かが太陽を跳ね返してきらりと光っている。
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