狼少年、拾いました。
 人の血__。

 すっと指先が冷える。

 「村の人に渡しましょう。どうせ誰かが見つけるんなら変な疑いを掛けられる前にこっちから出した方が良いわ。」

 指先の強ばった感覚を誤魔化すように拳をぎゅっと握る。

 滅多に足を踏み入れないとはいえ、彼らが絶対にここに来ないという保証はない。

 現にあの泉にプベルトがやって来た。

 この刃を一番初めに見つけたのが村人だと、胡散臭く思われている自分が何か関わりがあるのではないかと真っ先に疑われてしまう。

 村の家畜が狼に噛み殺されたことも、嵐で村長の家の屋根が吹き飛んだことも、妊婦が石につまずいて流産しかけたことも、とりあえず初めは自分のせいにされた。

 血にまみれた刃物なぞ絶対に気味悪がるに違いない。

 「それはそうだが。」

 藪の中を布の切れ端のような手で示すスティーヌ。

 「人のものを勝手に持ち去ってはいけないだろう。持ち主はどうする?」

 「持ち主?」

 怪訝な顔でスティーヌを仰ぎ見ると彼はつんつん、と藪を手で指す。

 はっとしてミェルナは藪をかき分けた。

 緑のなかに人が一人、倒れていた。

 スティーヌの後ろにさりげなく隠れて目を凝らす。
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