狼少年、拾いました。
 歳はミェルナと同じくらいだろうか。

 あちこちから血を流しているが、息はあるようだ。

 日に焼けた肌に引き締まった体をしているが、この村人と同じように農作業や狩りをしているようには見えなかった。

 それに髪が黒い.....烏のようだ。

 こんなに黒い色の髪は初めて見る。

 この山を下って、また別の山を越えた先にある海を渡ったところにある国には黒い髪の人々がいるとスティーヌから聞かされていたが、この人はそんな遥か遠くから来たのだろうか。

 にしてもどうしてこんな辺鄙なところに、血を流し虫の息で倒れているのだろう。

 「手当てしなきゃ。」

 「小屋までは運べぬだろう、男だ。それに何をするか分からない。放っておけ。」

 スティーヌの言葉に首を横に振ってミェルナは怪我人に手を伸ばした。

 「でも怪我してるのよ。それにあなたがいるし、大丈夫よ。ほら、これ持って。」

「しかし__。」

 彼の持ち物であろう剣と、その傍にあったぼろぼろの袋を押し付けるようにスティーヌに渡し、男の体を背負ってほとんど引きずるような形で、ミェルナはなんとか歩き出した……。


     *   *   *


 (……。)

 身体中が鉛のように重い。

 もちろん瞼も同じで、目を開けることは叶わなかった。

 だが匂いはなんとか彼の鼻に届いた。

 草木や土の匂い、知らない汗の匂いに、この世のものではないモノの匂い、血の匂い……。
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