狼少年、拾いました。
 だがこの頃、あの時スティーヌにはぐらかされたような気もする。

 村人__特に女たちの態度がミェルナの心の中にそんな疑念を掻き立てていた。

今の自分の生活は、まるで決して開けられることの無い箱だ。

陰口を言われ後ろ指をさされながら、森とこの狭い家を毎日行き来し、言われるままに薬を作る。

もっと、自分を受け入れてくれる人々は居ないのだろうか。

この箱を飛び出して、色々な世界を見てみたい。

(まぁ、でも、お金はないし。)

それに、スティーヌの他、たった一人優しくしてくれる灯火のような人がいてくれるだけ幸せというものだ。
 
くるりと家の中へ入って、小さな窓をばたっと開けた。

曇りの日の鈍い陽の光が届いて、狭い小屋の中が申し訳程度に明るくなった。

「では私は消えるとするかな。」

 ミェルナがエニシダで作られたほうきに手を伸ばしたのを見てスティーヌはすーっと部屋の空気に溶けるように姿を消した。

 手伝ってくれてもいいのに、とぼやきながらしばらく床を掃いていたミェルナだったが、扉を叩く音で弾かれたように顔をあげた。  
 
 ほうきを放るように壁に立て掛け、扉を開ける。

 待っていたのは思っていた通りの顔だった。
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