狼少年、拾いました。
 「私も望んだことではない。あの子にさせる訳にはいくまい、仕方ないだろう。」

 手拭いを湯に浸けながらレスクの不満に答えたのはもちろんスティーヌだ。

 「俺は別に構わねーけどな、むしろあんなかわいい子にやってもらえるんなら本望だぜ本望。……っていってぇ!」

 傷口に手拭いをわざとグリグリと押し付けたスティーヌを、首だけ動かしてキッと睨む。

 「本当に口の減らない奴だな。」

 鋭い眼光はものともせずにてきぱきと手を動かすスティーヌ。

 これに限らず、ミェルナの日々の家事の補助をするその手際の良さに、この分影子が本当に彼女の母親がわりだったのだとレスクは感心した。

 (さっきの飯にも毒の匂いはなかったし、殺して持ち物を奪うつもりはないみたいだな。でも油断はできねーな…まぁどっちにしろ長居は無用だな。)

 旅をしていると色々な人間と出会う。

 もちろんいい人ばかりではなく、裏切られることなんてしょっちゅうだ。

中には命まで取ろうとする人間までいたわけで。

 今のレスクが全身を預けて寄りかかれる人はいないといっても過言ではなかった。

 「よく拭いてくれよ。」

 「ああ。だがお前が落とそうと思ってるものはこれでは落ちない。」



 軒先に干していた薬草を取り込み終え自分とレスクの分の皿を洗っていると、スティーヌが湯の入った桶と手拭いを持って地下室から梯子を上がってきた。

 「あ、ありがとう。あの人の傷の具合はどうだった?」

 「順調だ。むしろ遥かに回復が早い。今はあまり動けないだろうが直に良くなるだろう。」

 「良かった。」

 再び皿洗いに戻ろうとしたミェルナだったが、スティーヌがまだ何か言いたげな様子で立っているのに気付いた。

 「……どうしたの?」
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