狼少年、拾いました。
 「長居はさせないぞ。」

 名前は出さないがレスクのことを言っているのだろう。

 ミェルナも、もちろん完全に信用しているわけではなかったが、ミェルナに比べてスティーヌは異常なほどあの怪我人のことを警戒していた。

 本人は何も言わなかったが、ミェルナは先ほどレスクのところへ食事を持っていった時に、スティーヌが黙って姿を消し背後に立っていたのを知っていた。

 そして今もこうして改めて念を押すようなことを言う。

 「?ええ、もちろんよ?でもあの人、行くアテはあるのかしら。」

 「彼の問題だ。深入りする必要はない。」

 話を打ち切るようにスティーヌは部屋の扉の方を仰いだ。

 「そろそろ来客がある。」

 いつもの通り人の気配が近づいてくるのを察したのだろう、桶を残して姿を消した。

 レスクが来てから初めての訪問者だ。

 床についている地下室への扉へ早足で向かう。

 「今から誰か来るから。静かにしててね。」

 梯子は下りずに入り口の縁に立って声をかけた。

 「分かったけど、下から見た顔おもしれーな、あんた。」

 無視して扉を閉じた。

 そして上から敷物と薬草を並べて入り口を隠蔽する。

 断っておくがきちんと空気は通っている。

 手早く片付けを済まし、そろそろ灯りを付けようかと思っていた頃、せわしなく扉が叩かれた。
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