狼少年、拾いました。
 返事をするかしないかのうちに扉が開いて来客が姿を現した。
 
 「ゼーラ!」

 そこに立っていたのは確かにゼーラだった……だが少し様子がいつもと違う。

 彼女のこわばった白い顔に、高揚しかけていた気分がざわつき始めた。

 「どうしたの?」

 ゼーラは答えない。

 その代わりに堪えていたのであろう涙が、ぽろぽろと出来物一つない頬を滑り落ちる。

 初めて見るゼーラの姿に動揺したが、自分も落ち着かせるべく行動を起こした。

 奥の棚へ走ってきれいな布を出しゼーラに涙を拭かせ、椅子に座らせる。

 その間も彼女は一言も発さず涙を流したままで、おまけに嗚咽まで漏らしはじめた。

 思い付く限りのことをやってしまい、どうして良いか分からずただおろおろしていると、やっとゼーラが口を開いた。

 「父さんがね、」

 続きを言いたくないのか一旦言葉を切る。 

「言ってきたの、嫁入り先が決まったって……。」

 つまり、ゼーラはもうすぐ結婚する、ということだ。
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