狼少年、拾いました。
 「おはよ!」

 ゼーラだった。

そろそろ来てくれる頃だろうと思っていたのだ。

 あからさまにミェルナを嫌がる村人達の中では比較的優しく接してくれているので、数少ない来客がゼーラだと心の中でひそかにほっとしている。

 村のおかみさんたちが村一番の器量良しだと噂をしていた。 

 確かに親の仕事を手伝って日光を浴びている割には色白な肌や、よく動く大きな目、うっすら紅い頬は、ミェルナが読んだ数々の本の中に出てくる美少女たちのそれとよく似ていた。

 この山の外には足を踏み入れたことのないミェルナには人の美醜の基準はハッキリとは判りかねたが、とにかくゼーラは今まで会った村人の中で一番“いい人”だった。

時々口実を付けて村の仕事を抜け出し、山の奥深くにあるミェルナの家を尋ねてくれたりもする。

 「今日は、どうしたの?」

 「シルニーのおなかがまだ治らなくて。相変わらず下してるの。ミェルナに頼ろうと思って。」

 シルニーはゼーラの下から二番目の弟だ。

今回は本当に用が会ってミェルナを尋ねてきたようだ。

 形のよい眉を困ったように下げるゼーラ。

 こういうふとした時に見せる仕草や表情から、彼女の評判が良い訳がうっすら伺えた。

 「それならちょっと待ってて。」

 小屋の中の窓際にある小さな木の椅子にゼーラを座らせると、ミェルナは薬の入った棚を探し始めた。

 来客に背を向け壺やら何やらの中を漁っていると、後ろから声が飛んでくる。

 「実はね、もう一ついいたいことがあるの。」
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