狼少年、拾いました。
ミェルナの曇った顔を見て察したのかゼーラは眉を上げた。

 そしてミェルナが答える間もなく続ける。

 「大丈夫よ、気にしないで。」

 「でも__。」

 またゼーラはミェルナの言葉を遮った。

 「祝ってくれた方が嬉しいわ。とりあえず、おめでたいことなんだから。」

 ゼーラの二の句をつがせない口調は、ミェルナにではなく、まるで自分自身に言い聞かせているようだった。

 「そうね…おめでとう。」

 笑顔に乗せられるように頷いていた。

 「ありがとう。じゃあ、わたし、そろそろ帰るわね。抜け出したのがばれたら怒られちゃうから。」

 さっと立ち上がるその仕草すら可愛らしい。

 扉を開ける前にゼーラは思い出したように振り返った。

 「そう言えば、ここの椅子動かしたの?」

 ゼーラをいつも待たせている椅子だ。

 地下室への扉があるのをレスクが見つけたのが、この椅子の元あった場所のそばだったのだ。
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