狼少年、拾いました。
 「あ、そうなの。ここすきま風が当たるから。」

 動揺したのを悟られないように、目が泳がないように注意しながら答える。

 動かさない方が却ってよかっただろうか。

 だがまさかこの小屋の地下に隠し部屋があってそこに怪我人を匿っているなんて想像もつかないだろうと思い直した。

 「あ、ちょっと待って。」

 ゼーラを引き止めるとミェルナは奥の棚へ走った。

 目当てのものを見つけ、ゼーラの所へ急ぐ。

 「山を下りるなら、これ持っていって。転ばないように気を付けてね。夜明け前っていってもしばらく暗いから。もし転んだりしたら、これを塗ってね。」

 黄色い花の刺繍の入った小さな巾着袋を渡した。

 ミェルナが作ったもので、中には塗り薬が入っている。 

 「ありがとう。大事に使うわ。でも大丈夫よ、今晩は月が明るいみたいだから。」

 お茶ごちそうさま、と泣いていたわりには軽やかにゼーラは去っていった。

 (なんだか筋書き通りに言葉を言わされた感じだったわね。)

 悪い気がしないわけではなかったが、それよりもゼーラといずれ離れてしまうだろうということと、彼女自身の少し無理をしている感じが気になっていた。

 ゼーラが消えていった森を見つめる。

 夕暮れ前の、少しだけ、もの寂しい日差しが木々の影を長々と伸ばしていた。



 そして太陽が西に傾いたころ。 

 「え?出ていく?」

 レスクの一言にミェルナは使う包帯や薬の一式を出していた手を止めた。
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