狼少年、拾いました。
 「ああ。もう大丈夫だから。」

 見ると確かに、即席の寝台のそばに少ない荷物がまとめられている。

 昨日までの雰囲気とは違って、無駄なことは一切ない、そっけない言い方だった。

 「何言ってるの…?まだ駄目よ。」

 態度の変容に内心戸惑っていた。

さっき無視したのが気に障ったのだろうか。

 「あんたには関係ないさ。」

 大きな手で突き放された気がした。

 それどころかミェルナに対して鬱陶しさすら感じているようだ。

 そっけない言葉に思わず荒い口調になってしまう。

 「さすがに関係あるんじゃない?手当ても食事の世話もしたのよ。診てる私の意見も聞いたらどうなの?」

 「本人が大丈夫だって言ってんだぜ?いいっつってんだろ。」

 ミェルナの語調に乗っかるように、レスクの言葉にあからさまに苛立ちが垣間見えはじめた。

 そして、レスクは返事を待たずにそそくさと地下室の出口である梯子に向かう。

 (ここで一緒に熱くなっちゃだめだわ。……こんな状況、物語でよく読むわ、駄目よ、冷静になるのよ。)

 レスクの言葉に傷つく一方で、心の中で自分を落ち着かせるようにまくしたてていた。

 「そこまで言うなら止めないわ。せめて最後に傷の具合、見せてちょうだい。」

 引き留めようと傷ついていない方の肩に手を掛ける。

 まるで電流でも流れたかのようにレスクの反応は早かった。

 「触んなよ」

 橙色の目がぎらりと光らせて、ミェルナの手を乱暴に払いのけた。
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