狼少年、拾いました。
 ゼーラは父と叔父と共に、望まない許嫁に会いに麓の村へと向かっていた。

 暗い上に何時間か前まで降っていた雨のせいでかなり道は悪く、ゼーラの憂鬱に輪を掛けていた。

 「しっかし幸せもんだなぁ、ゼーラの未来の旦那は。こんなべっぴんさんが嫁に来てくれるなんてよ。」

 荷を背負って前を歩く叔父が明け方の薄闇を割るような大声で言った。

 「やめてよ、叔父さん。」

 笑顔を作ろうと思ったが足元がおぼつかずぎこちない顔になった。

 後ろから父の声がする。

 「無駄なことは言わない方がいいぞ、町まではまだまだ遠いからな。体力を温存しとけよ。さっきの雨で大分歩きにくくなってる。」

 村一番の体力を誇るだけあってほとんど息切れしていない。

 それに比べてゼーラは早くも息が大きく乱れていた。

 出発したばかりの頃は憂鬱と初めて訪れる町への好奇心がせめぎあっていたが、今は足元の悪い急な道を下るのに精一杯だった。

 必死で足を動かしていると、少し奥の暗闇の中からカサカサッと何かがうごく音がした。
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