狼少年、拾いました。
 びくっとして音の聴こえた方へ灯りを掲げるのを見て、父が笑って言う。

 「大丈夫だよ、きっとネズミか何かさ。」

 (それにしては大きい気がしたけど。)

 考えないようにしよう…と夜明け前の濃紺の闇から目を背けて再び灯りを戻すと、今度はもっと奥の方から別の足音がした。

 ネズミでは決してない。

 いや、それどころかもっと遥かに大きいものだ。

 不安に思って振り返って父の顔を見ると、表に出さないようにしてはいるが強張った表情をしているのが分かる。 

 前を歩く叔父の言葉に、背中に寒気が走った。

 「走れるか、ゼーラ。」

 「いや逃げても追われるだけだ。」

 そう父が言い終わるか否やのとき。
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