狼少年、拾いました。
 「…ううん?来てないわ。」

 会話の流れを無視して投げかけられた唐突なゼーラの質問に少し戸惑い、薬を探す手を止めて振り返っていた。

 「ほんと?」

 聞き返すゼーラに念を押した。

 「ほんとだって。だって、知ってるでしょ。」

 何故だか分からないが、ミェルナの小屋の近くには男は赤ん坊ですら誰一人近付くことは出来なかった。

そのことに気付いたのは、 一度ミェルナが指示した治療法をきちんと守らず火傷のあとが子供の顔に残ってしまったことに逆上した父親が乗り込んで来たことがあったが、ミェルナの小屋まであと10歩ほどのところからは進むことができなかった時だ。

どうやら見えない壁のようなものが立ちはだかっているようで、その男のみならず男なら誰でもそれ以上は前へは進めないのである。

 薬草の種類や文字の読み方など大抵のことは教えてくれるスティーヌに尋ねても答えは分からなかった。

 だが、妖女の術膜じゃ…あやつは妖女に守られとるんじゃ、と憶測で入れ知恵する村の年寄り連中のせいで、よりいっそうミェルナは気味悪がられ、畏れられていた。

 そんなこんなで男とは話したことがなく、ゼーラもこのことは知っているはずである。

 「そう……。」

 少し煮え切らない表情のゼーラだったが、切り替えるように手をぱんと打ち合わせた。

 「あのね、お願いがあるの。」
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