狼少年、拾いました。
 村のみんなに辛く当たられて、いつも辛気くさいあの子の前ではいつも幸せな顔をしておきたかったんだわ。

 それで、自分が落ち込んでる時にあの子が楽しそうにしてるのを見て、腹が立ったんだわ。

 いやそうじゃなくて私はずっと、いつでも森の中を自由に歩き回って、一人で生きている彼女が眩しかったのかな。

 だから今、彼女がいつも自在に歩く森をあてもなくふらついているのかしら。

頭の中をさまざな思いがぐるぐると駆け回る。

 迷ったっていい、そんな無謀な思いでゼーラは草を踏みしめながら足を進めた。


    *     *     *


 特にミェルナとの会話が盛り上がっていたわけではないのに、彼女が慌ただしく森の中へ消えてしまうと、妙に静かになったように感じられた。

 だが寂しさは感じない。

 この傷が動くのに差し支えない程度に回復したら、さっさと離れてしまおう。

 面倒事はもうごめんだった。

 そんなことを思って、どうやってミェルナたちの元を去ろうか考えていた時、彼女が走っていったのとは別の方向から足音が聞こえてきた。

 「意外と速いじゃん。」

 そう言いながら振り返った。

 「!」

 木々の間に立っていたのはミェルナではなかった。
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