あと1秒だけ、ボクの隣で。
「葉くん、もうそろそろ、お別れしよっか」
「…あと、一秒だけ」
あと、一秒。
君の体温を確かめて。
「さようなら」の準備をするから。
可奈子は背中に回していた手をスルリと解いて、僕の手を握った。
そしてニッコリと微笑むと、僕の隣の席に座った。
「ずーっと憧れてた。
葉くんの隣の席で、一緒に授業受けたりするの」
「……」
「今度会った時は、そうできたらいいね」
「うん」
ニコリと穏やかに微笑んだ可奈子はゆっくりと黒板に視線を向けた。
僕も同じように、黒板を見る。
たった数秒の出来事だった。
すぐ隣を見たら、そこから可奈子は消えてしまって、僕の手には何も残っていなかった。
「可奈子…」
でも、確かに感じる。
彼女の体温。甘い香り。柔らかな感触。
忘れない。忘れられない、三年間…。