次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「はい?」
そこには、何度かしか見たことがない会社の重鎮が男性の秘書を伴って立っている。たしか、
「専務」
社長よりも印象は薄いが、間違いない。高級そうなスーツを身にまとい、その人相は目つきがやや悪く、どこか爬虫類のようだった。
普段、総会などでも社長以上に一般社員はお目にかかる機会は少ないから、むしろよく覚えていたと我ながら思う。
「少し時間をもらえないかな。直人のことで話したいことがあってね」
いきなり直人の名前が出て、私は驚いた。専務は口角を上げる。その表情は、人のいい笑みではなかった。
「なに、社長から話は聞いているんだ。私は社長の弟で直人の大叔父になるんだよ」
『三日月今日子の孫と結婚しなければ、会社の権利諸々は忠光様の弟である貞夫さまにすべて委ねる、ということですからね』
『大叔父は俺を嫌っているし、孫がいるからな。じいさんは、よっぽど俺に後を継がせたくないらしい』
この間の栗林さんと直人の台詞が頭を過ぎる。ということは、もし直人が社長の出した条件をクリアできない場合、この人が会社を継ぐことになるのだ。そんな人が私になんの用だろうか。
「あの、ですが、まだ業務中でして」
資料の束を持つ手に力を入れる。すると専務はそばに立っていた秘書に目配せした。
「必要なら上司に伝えておこう。……君たちのことも含めて」
「それはっ!」
反射的に声をあげてしまい、急いでつぐむ。それは暗に脅しではなかろうか。そんなことを言ったら、それこそこんな会話を専務と交わしていること自体、誰かに聞かれたらまずい。
「お気遣いは無用です、お話ってなんでしょうか?」
感情を押し殺して端的に答える。こうして私は、役員室に足を運ぶことになった。
そこには、何度かしか見たことがない会社の重鎮が男性の秘書を伴って立っている。たしか、
「専務」
社長よりも印象は薄いが、間違いない。高級そうなスーツを身にまとい、その人相は目つきがやや悪く、どこか爬虫類のようだった。
普段、総会などでも社長以上に一般社員はお目にかかる機会は少ないから、むしろよく覚えていたと我ながら思う。
「少し時間をもらえないかな。直人のことで話したいことがあってね」
いきなり直人の名前が出て、私は驚いた。専務は口角を上げる。その表情は、人のいい笑みではなかった。
「なに、社長から話は聞いているんだ。私は社長の弟で直人の大叔父になるんだよ」
『三日月今日子の孫と結婚しなければ、会社の権利諸々は忠光様の弟である貞夫さまにすべて委ねる、ということですからね』
『大叔父は俺を嫌っているし、孫がいるからな。じいさんは、よっぽど俺に後を継がせたくないらしい』
この間の栗林さんと直人の台詞が頭を過ぎる。ということは、もし直人が社長の出した条件をクリアできない場合、この人が会社を継ぐことになるのだ。そんな人が私になんの用だろうか。
「あの、ですが、まだ業務中でして」
資料の束を持つ手に力を入れる。すると専務はそばに立っていた秘書に目配せした。
「必要なら上司に伝えておこう。……君たちのことも含めて」
「それはっ!」
反射的に声をあげてしまい、急いでつぐむ。それは暗に脅しではなかろうか。そんなことを言ったら、それこそこんな会話を専務と交わしていること自体、誰かに聞かれたらまずい。
「お気遣いは無用です、お話ってなんでしょうか?」
感情を押し殺して端的に答える。こうして私は、役員室に足を運ぶことになった。