次期社長と甘キュン!?お試し結婚
『それに俺は浮気しない』

 力強く直人に言われた言葉を思い出す。あれはお父さんのことを受けての台詞だったらしい。直人の育ってきた環境や両親に対する思いを考えると、胸が切なくなってくる。

 直人にとって、社長の跡を継ぐ、ということは、ある種の生きるための目標でもあったのだ。それなのに

「だから」

 私の考えを遮るようにして、直人は言葉を続ける。いつの間にか、直人はじっとこちらを見ていた。漆黒の瞳が私をまっすぐに捕える。

「結婚のことも、夢なんて見てなかった。じいさんが選ぶ相手と結婚するんだろうな、ぐらいは思っていたし、そのことに不満もなかった。恋愛と結婚は別だ。条件を出されたときは、ショックではあったけど、そこまで悲観ぶってはなかったんだ。女性の扱いはそれなりに心得ているつもりだし、それなりの恋愛もしてきた」

 直人と一緒にいて、分かっていたはずなのに、少なからず本人の口から過去の恋愛のことを聞いて私の心は乱れた。

「私で、ごめんね」

 視線を逸らして、私は搾り出すように呟く。責められたわけでもないが、どうしたって居た堪れない。なんたって同じ孫なら朋子でもよかったはずなのに。

 そこで直人の腕が上がり、ゆっくりと私の頭の上に掌が置かれる。

「謝らなくていい。ただ、正直に言えば、じいさんの出した条件よりも、晶子の出した条件の方に参ったよ」

「え?」

 直人は苦笑いをしているが、先ほどまでの硬い表情ではなかった。犬にするみたいに私の頭をよしよしと撫でる。
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