次期社長と甘キュン!?お試し結婚
 少しばかり残業した後で、私は指定された場所へと向かう。そこは社員専用の立体駐車場だった。と、いっても一般社員に宛がわれたフロアとは異なり、停まっているのは数台でどれも高級車だ。

 恐らく上層部の人間専用の場所なのだろう。なんだか場違いな気がして、なにも悪いことはしていないのに、私はエレベーター前に身を縮めるようにして彼を待った。

 駐車場を照らす蛍光灯が時折音をたてる。そして、突然エレベーターのドアが開いたので、私の心臓が口から飛び出そうになった。

「もう来てたのか」

 そこには、私が待ち合わせをしていた相手であり、今ではうちの会社の社長代理となった宝木直人の姿があった。まじまじと見下ろされ、私は急いで頭を下げる。

「お疲れ様です」

 それに返事をすることはなく、宝木さんは歩き出したので後を追う。キョロキョロと周りを気にしながらついていくと、目指している車を見て私は反射的に呟いた。

「BMW M3」

「よく知ってるな」

 少しだけ感心したように言われ、私は顔を向けた。車自体はそんなに詳しくないが、かの有名なアクション映画で主人公が乗っていたものと同じ型だ。

 そのことを確認するように宝木さんに告げて、私は車に視線を走らせながら興奮気味に続けた。 

「最新作で主人公が乗ってたんですよね。あのモロッコでのカーチェイスはすごかったですけど、壊されっぷりもすごくて。さらに、そこからバイクに乗って」

 そこで私は我に返り、口をつぐむ。宝木さんが冷めた目でこちらを見ていたからだ。

「とにかく乗って。連れていきたいところがあるんだ」

 助手席を開けて乗るように促してくる宝木さんに、どちらへ? と遠慮がちに尋ねた。それには鋭い視線が返ってくる。
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