次期社長と甘キュン!?お試し結婚
 そこで私は、わざとらしく淹れていたアイスティーに手を伸ばした。以前、指摘されてから直人好みに気持ち濃く作るようになったので、私のグラスはいつも氷たっぷりだ。

 喉を潤して一息つくと、私は背もたれに体を預ける。直人の話を聞いて、さらに先ほど画面に映っていた祖母を思い出し、少しだけ感傷的な気分になった。

「……私は、三日月今日子の孫だけど、おばあちゃんの見た目も才能も受け継がなかったから、ちょっと申し訳なく思っているよ」

 直人を見ていると、自分は祖母のために、なにかできたのかとつい自問自答してしまう。色々な気持ちが、思い出と共に溢れ出そうになっての発言だった。こんなことを言われて、直人も困るだろう。

 気を遣わせたり、フォローさせたいつもりじゃない。だから、私は努めて明るい声で、ま、その分、朋子がばっちり受け継いで活躍してるけどね、とつけ足した。

「どんなに美人で、いい演技をしたって」

 間髪をいれずに直人が口を挟んできたので、私は虚を衝かれた。そして、直人は言葉を迷いながら続ける。

「ちゃんと、観てくれる人がいないと成り立たないだろ? 晶子は、演じる才能はないかもしれないけど、観る才能はちゃんと持ってる。おばあさんも喜んでいるさ」

 観る才能ってなに? そんな風に突っついてやろうと思ったのに声にできなかった。

 昔、祖母が『晶子みたいに、お芝居を心から楽しんでくれる人がいるから、私たち女優は頑張れるのよ』そんなことを言ってくれたのを思い出せたから。
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