次期社長と甘キュン!?お試し結婚
 最後までワンピースかスカートを着るかどうか迷って、結局、フリルのあしらわれた甘めのデザインの淡い青色のトップスに白ジーンズという、デートというより夏を意識した無難なコーディネートに決着する。

 こういうところで勝負に出られないのが、なんとも自分の女子力の低さを物語っているようで悲しい。それでも、化粧も心なしかいつもより丁寧にして、出かける直前に、鏡で確認する。

 そのとき、いつもは気にしないのに、眼鏡が引っかかった。

 直人にはない方がいいと言われたけど……。私は眼鏡をはずしてもう一度、鏡に向き直った。やはり視界がぼやける。この距離でも、はっきりしないなんて、また視力が落ちたかもしれない。

 この姿を見たら、直人はどう思うだろうか。色々思い巡らせて、私は再び眼鏡をかけると、視界をクリアにさせて家を出た。

 八月の日曜日は晴天に恵まれ、むしろ日差しが刺さるように痛い。蝉の鳴き声を聞きながら私は駅に歩いて向かい、公共交通機関を利用して目的地を目指す。

 よく行く映画館なので、道順はすっかり頭に入っているが、今日はそこで直人と待ち合わせだと思うと、変に緊張してしまう。おかげでいつもより随分と余裕を持って家を出た。

 映画館の入口に着いて、クーラーの効いた館内にほっとする。汗が引いていくのを感じながら時計を確認して、さっきから焦り気味の心臓を押さえるために深呼吸をした。

 改めて周りを見れば、私と同じように待ち合わせをしているであろう人々が目につく。映画館に入ってすぐのところにある謎のシルバーのオブジェは待ち合わせ場所にうってつけだった。
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