次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「栗林さん、どうされたんですか!?」

「晶子さま、夜分遅くに申し訳ありません」

 慌てて鍵を開けて、栗林さんを招き入れると、いつもの温厚な笑みはなく、どこか焦っているような切羽詰まった表情だった。

「直人になにかあったんですか?」

「いいえ。私だけ出張先から戻ってきたんです。晶子さま、突然で申し訳ないのですが、荷造りしていただけませんか? しばらくはこのマンションに帰って来ないつもりで」

「え!?」

 いきなりの話に、私は頭がついていかない。それでも、言われるがままとにかく荷造りを急いだ。一体、どういうことなんだろうか。

 しかし、話を聞いている余裕もないくらい緊迫しているのが伝わってきて、訳が分からないまま、私は旅行用のキャリーケースに服や必要なものを詰め込んだ。

「直人さまが、朋子さまと週刊誌に写真を撮られまして」

 促されるまま車に乗り込んで、話し始める栗林さんの第一声に私は驚きが隠せなかった。

「直人と朋子が!?」

 あまりの大きな声に、私はすぐに口を閉じる。栗林さんは、こちらをちらりと見ると、やや早口で続けた。

「誤解なさらないでくださいね。朋子さまに、うちの会社のイメージモデルを務めて頂いていますよね? その契約を更新するためにお会いしたんです。社長が倒れてから挨拶もしていませんでしたし。仕事の話をするためにお会いしたんです」

 栗林さんは力強い口調で説明してくれた。朋子はうちの会社のイメージモデルをしてもらっている。そのことで社長代理である直人が会うのもおかしい話ではない。でも、私はその話を直人から一言も聞いていなかった。
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