次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「いや、申し出は有り難いけど、それは悪いって」

「悪いのは朋子と晶子の婚約者で晶子は被害者だろ? 遠慮すんなよ」

「別に二人が悪いわけじゃ……」

 言い淀んでいたら二枚目のタンがお皿に乗せられる。薄切りのタンは焼けるのが早い。

「もうさ、朋子にくれてやれば?」

 まるでこの焼けたお肉のことを言っているかのような、そんな言い草。なにを、というのはわざわざ聞き返す必要もなかった。航平は肉を焼くのに夢中で、こちらには目もくれないのに、その言葉は鋭い。

「元々、ばあちゃんが言ってた孫同士がどうとかいう話だろ? なら朋子でもいいじゃん」

「でも朋子には付き合ってる人がいて」

「だからって晶子が無理すんのか?」

 遮るような強い口調に私は少しだけ躊躇った。

「……無理はしていない」

「向こうは最初から晶子を望んでたのか?」

 私が考えないように、目を背けていたことを航平はいとも簡単に突っついてくる。おかげで私はなにも言えなくなった。重い空気に包まれ、肉の焼ける音だけが耳につく。そして、しばらくしてから航平がため息をついた。

「悪い、俺が口出す問題じゃないのに」

 私は静かに首を横に振った。分かっている、なんだかんだいって航平は私のことを心配してくれているのだ。

「ま、実家の件は真面目に考えろよ。ホテル代だって馬鹿にならないだろうし。晶子の気が楽な方にしたらいいって」

「ありがとう」

 私は素直にお礼を告げた。すると航平はなんでもなかったかのように追加注文の話題を振ってくれ、それからはいつもの調子で色々話ながら楽しく食事ができた。
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