次期社長と甘キュン!?お試し結婚
「え、どうしたの急に? それに朋子は付き合ってる人がいるんでしょ」

『あー、彼ね。実はついこの前、別れちゃったんだ。最近はお互い連絡も取れてなくて、そろそろ駄目かな、とは思っていたんだけど』

 あっけらかんと答える朋子に、心臓が早鐘を打ち出し、呼吸が乱れていく。相手に動揺を悟られないようにと必死だった。

『直人さん、話してみると素敵だし、優しくて紳士的だから、いいなって思って。外見も文句ないし。晶ちゃんが無理して結婚するくらいなら、私が真剣に考えてみるよ』

「無理なんてしてないよ!」

 前に航平にも同じようなことを言われたのを思い出し、強く否定した。周りから見て、そんなに私は無理をしているように見えるんだろうか。

『そう? まぁ、晶ちゃん次第だけど、考えてみて』

 電話が切れた後も私は固まったままだった。朋子が、直人のことを? 本気なんだろうか。朋子は私次第、なんて言っていたが私の意志は関係ない。選ぶのは直人だ。……選ぶ?

 思考が停止したところで背中に嫌な汗が流れる。週刊誌の記事に載るとか、それ以前に仕事でとはいえ、直人と朋子が会ったと知ったときから私の気持ちはずっと落ち着かなかった。その答えがようやく分かった。

 私はずっと恐れていた、朋子と直人が接触するのを。今までの経験を踏まえれば、十人、いや百人いれば百人が私ではなく朋子を選ぶだろう。

 それを私はとっくに自覚している。直人は朋子に会ってみて、なにを思ったんだろうか。本当はお見合いを希望していた朋子に会って。

『向こうは最初から晶子を望んでたのか?』

 千切れそうに痛む胸を押さえる。それを想像するのも、本人に聞くのも、怖くて、苦しくてできそうもなかった。
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