次期社長と甘キュン!?お試し結婚
 見舞いを終えて病院から出ると、彼は急ぎ足で車に向かうので、私も必死についていった。お互い、病室を出てから一切、口を利いていない。

「さっきの話、本気じゃないですよね?」

 二人とも、無言で車を乗り込み、私から確かめるように尋ねた。宝木さんはため息をついてエンジンをつけたが発進しようとはしない。エンジン音だけが耳につく。

「じいさんが、ああ言った以上は従うしかないだろ」

「そんな、無茶苦茶です!」

「俺に言われても、もう話は進めているさ」

 どこか諦めきっている宝木さんに私はさらに続けた。

「宝木さんは、それで本当にいいんですか?」

「いいって?」

「さっきも言いましたけど、お祖父様の望みだからって、ほぼ初対面でなにも知らない、ましてや愛し合っているわけでもない私との結婚を簡単に決めて」

 一息で言い切ると、宝木さんは少し驚いた顔をしてこちらを見た。

「君がこだわるのはそこか」

「そこって」 

「愛し合うか。女性はそういうのが本当に好きだな」 

 面倒くさそうな、呆れたような物言いだった。これでは、なんだかこちらが間違ったことを言ったみたいではないか。

 愛し合っているか、お互いに好きかどうか、女性に限らず、結婚するならとても重要なことのはずだ。そう反論しようとする前に彼がこちらを向いた。
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