次期社長と甘キュン!?お試し結婚
 いきなり前触れもなく無防備だった私の手を直人が取ったので、心臓が止まりそうになった。直人の顔を見ると、まっすぐな眼差しとぶつかった。

「祖父母同士の約束とか、俺が社長になるためとか、そんなの全部白紙に戻して……それでも俺と結婚してくれないか?」

 なにを言われたのか、脳の処理が追いつかない。でも触れられている手の温もりはたしかで、握っていた私の指の力が自然と緩む。それを感じて直人は私の掌と指を労わるように自分の指先で優しく撫でてくれた。

 その間も直人の瞳は私は捕えたままで、しばらくの沈黙が二人を包んだあと、彼は切なそうに顔を歪めた。

「本当に、晶子には通じないんだな」

 なんのことか分からず、ただ見つめ返すことしかできずにいると、直人が少しだけ背を屈めて私に身を寄せてきた。

「演技でも作ってるわけでもなく、こんなに、なりふりかまわず、本気でずっと晶子を口説いているのに。当然なわけないだろ、妹の方に気持ちなんて微塵もない」

「なん、で? だって、直人は朋子が……」

 ますます理解できなくて、間抜けにも言葉に出せたのはそれだけだった。すると直人は眉を寄せて、息を軽く吐いた。
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