次期社長と甘キュン!?お試し結婚
 病院前で待機しているタクシーを拾い、私は家路につく。色々な出来事と感情が混ざり合って、悪酔いしている気分だった。

 なんなの、あの手慣れている感は!

 力をこめて握り拳を作る。いや、実際に手慣れているんだろうけど。あんな躊躇いもなくキスしてしまえるなんて、思わず見惚れて受け入れてしまった自分が情けない。 

 家に帰って来たものの、食欲もなく、着替えてからベッドに突っ伏す。すると、そのタイミングを待っていたかのように携帯が音を立てたので私の心臓が跳ね上がった。

 もしかして、と思い恐る恐るディスプレイを確認する。そこに表示されていたのは、予想に反して、よく知った人物の名前だった。

「もしもし?」

『もしもし晶子? 先日のお見合いの件なんだけど』

 興奮を抑えきれないというのが声だけで伝わってくる。電話の相手は麻子叔母だった。ちょうどいい、と思いこちらから話を切り出そうとすると、まさかの言葉に遮られる。

『もう、なんで言ってくれなかったの? 直人さんと婚約するんですって?』

「え!?」

『宝木会長から連絡があって、一緒に住むことを聞いたのよ。もちろんOKしといたわよ? 引越しもあるだろうから、晶子の都合も教えて欲しいって。いやー、よかったわね、直人さんと上手くいって』

 私は血の気が一気に引いた。
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