次期社長と甘キュン!?お試し結婚
『正直ね、お見合いをしたときは、先方も朋子を希望していたんじゃないか、ってハラハラしてたんだけど』

 どさくさに紛れて、ちゃっかり叔母のいらぬ本音まで聞いてしまった。それは私も思っていたことなので、なにもつっこまないけど。

「ちょっと待って。私、さすがにいきなり一緒に住むのは」

『なに言ってるの。どうせ結婚するならいいじゃない。そんなところにいつまでも住んでないで』

「それでも、私はここが気に入っているの!」

 つい強めの声で反論してしまい、私はすぐに後悔した。電話の向こうからしゅんとした空気が伝わってくる。

「ごめんなさい、叔母さん。でも私、宝木さんとは知り合ったばかりで、まだ状況についていけなくて」

 本音を漏らすと、叔母の軽いため息が聞こえてきた。

『こっちこそ、はしゃぎすぎて悪かったわ。でも晶子のことは明子からも頼まれていたし、ずっと男っ気がなかったのも心配してたのよ。いいじゃない、こんなにあなたを望んでくれる人なんていないわよ? 直人さん素敵じゃない。誠実で外見も整っていて、家柄も仕事も申し分ない。なにが不満なの?』

『俺のなにが不満なんだ?』

 そこで宝木さん本人から言われた言葉を思い出す。不満があるとか、そういう問題ではない。それ以前の問題なのだ。さらに叔母は私に言い聞かせるように続ける。

『女はね、愛するより愛された方が幸せなのよ。結婚してみれば晶子も分かるわ。それに、おばあちゃんもずっとあなたのことを気にしてたから、この縁談がまとまって、きっと喜んでるわよ』

 結局、私はそれ以上電話で叔母になにか強く言うことができないまま電話を切る羽目になった。
< 20 / 218 >

この作品をシェア

pagetop