次期社長と甘キュン!?お試し結婚
 病院を後にして、とりあえずお昼を済ませようとレストランに入る。これからのことを色々話しながらも、直人はやはり、社長から聞いた話で思うところがあったのか、いつもより口数が少ないように思えた。

 食後のコーヒーを飲みながら、直人がちらりと時計を確認した。

「この後はどうする? せっかくだし、指輪でも」

「直人」

 申し訳ないが、私は彼の名前を呼んで発言を遮った。そして、まっすぐに彼を見据える。

「私ね、行きたいところがあるの」


 



 車から降りて、私は敷地内に足を踏み入れる。まだ日差しは厳しいが、風があるので過ごしやすい。心地よい風が頬を掠め、持っていた花束を揺らした。空を見上げると、綺麗な青空が広がっている。

「少し派手すぎじゃないか?」

「いいの、おばあちゃんはこれぐらいで」

 代々、お世話になっているお寺の墓地へと足を進める。おばあちゃんが亡くなったとき、お葬式はもちろん、偲ぶ会なども行われ、多くの人々がお別れに来てくれた。

 おばあちゃんは生前、お墓はおじいちゃんや先祖たちと同じで特別にしなくていい、と言っていたので、その希望どおり、おじいちゃんと同じお墓に納骨され、こうして他の人たちと同じように墓地の一角で眠っている。

 お彼岸にはまだ早いので、人の姿は見られない。それでもお盆があったから、多くのお墓には生花が供えられていた。
< 202 / 218 >

この作品をシェア

pagetop