次期社長と甘キュン!?お試し結婚
 それから、しばらく彼女とあまり顔を合わすこともなかった。忙しい時期にわざわざ専務が長期出張してくれたおかげもあって、その穴埋めもこなさなくてはならない。

 腹が立つというより、呆れる気持ちの方が大きくて、でも、忙しいことにどこかほっとしていた。

 さすがに疲れが溜まって、喉に違和感を覚えて帰宅すると、彼女がわざわざ出迎えてくれた。気まずさを拭おうとしてくれているのが分かったのに、疲労感もあってわざと冷たく当たる。

 どうしてこんな態度をとってしまうのか、彼女に好きになってもらわないと、結婚してもらわないとならないのに。

 もっと上手く立ち回れる術を自分は知っているはずだ。この結婚話だって最初は自分のペースでずっと進めてきたのに。彼女には好きになってもらうどころか、余裕もなくて、八つ当たりまがいの弱い自分ばかりを見せている。

「晶子には、みっともないところばかりを見せてるな」

 懺悔のつもりか、自嘲的に本人に向かって呟くと、彼女は即座に否定してくれた。

「そんなことない。直人は十分にかっこいいよ」

 今までも散々聞いてきたことのある台詞。でも彼女が続けたのは意外な内容だった。

「直人、三島さんと会ったとき、ちゃんと丁寧に頭を下げてたでしょ? 人間ね、偉くなればなるほどそういうことができなくなるんだって。でも、仕事ができるっていっても結局は人を相手にするわけだから。だから直人のそういうところ……尊敬してるよ」
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