次期社長と甘キュン!?お試し結婚
 自覚すると、色々なことが繋がって、おかしくなる。この前から抱いていた得体の知れないもやもやした感情は、嫉妬心や独占欲と呼ばれるもので、子どもみたいに、彼女を誰にも渡したくなかったからなのだ。

 じいさんの出した条件は必ず叶える。でも、それ以前に、彼女に自分のことを好きになってもらいたい。ただ、こんな風に自分から誰かを求めたことが今までにないから、具体的にどうすればいいのか分からない。

 彼女に愛されるために、好きになってもらうためにどうすればいいのか。ましてや、これまでの過程が過程だ。今更、自分の気持ちを伝えたところでどうなる? 信じてくれるのか? 

 好きになりたい、なんて言ってくれた彼女を追い詰めるだけなんじゃないだろうか。おまけに、俺は彼女にじいさんの出した本当の条件についても話していない。

 思案を巡らせながらも、今、そばにいる彼女を手放したくない。彼女はこの前の一方的なキスのことを責めることもしなかった。それどころか、唇を重ねても、拒むことなく受け入れてくれる。でも、それは俺のことが好きだから、というわけではない。

 好きになりたいから、なのだ。

「俺は、今は晶子にしかこんなことしないし、結婚するんだから、これから先も晶子だけだよ」

 こんなことで俺の気持ちが伝わるはずもない。その証拠に、彼女はなんだか複雑そうな顔をしている。

 こうして、俺が彼女のことが好きだと自分で気づいたのは、自分で状況を随分と複雑にしてしまった中でのことだった。
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